2008年に発表された、米国の女流作家、エリザベス・ストラウトのベストセラー「オリーブ・キタリッジの生活」から11年。2019年にその続編とも言うべき「オリーブ・キタリッジ、ふたたび」(原題: OLIVE AGAIN」が出版されました。
前作はオリーブが、中年から初老にかけての時代を、彼女が住むメイン州の海に隣接した田舎町グロスビーを舞台に、さまざまな人間模様が描き出されたが、今回はその後のオリーブ、すなわち老いていく彼女とその周囲の人々の模様が描かれています。
作者 エリザベス-ストラウトはWASPの末裔
1956年生まれ メイン州ポートランド出身
作家生活をしながら、ニューヨークに長く在住しています。
作家としてのデビューは遅く、初めての長編小説は1998年発表の「エイミーとイザベル」
2008年発表の長編小説三作目の本作品「オリーヴ・キタリッジの生活」で、翌年ピュリッツァー賞を受賞。
ストラウト家は先祖を辿れば、メイフラワー号の到着(1620年)より前から移住してきた、典型的なWASP
(White Anglo-Saxon Protesstantの略)の家系で、この作品の舞台クロズビーも彼女が生まれ育ったアメリカ北東部・イングランド地方の田舎町という設定です。
物語の背景とテーマ
「オリーヴふたたび」の物語の舞台は、前作と同じメイン州の海沿いの田舎町「クロズビー」、そして時折出て来るクロズビーから近い、オリーヴと最初の夫ヘンリーの育った町「シャーリー・フォールズ」。
13の短編から構成される「オリーブふたたび」。時系列的に綴られた各編は一編ごとに物語は独立しているが、殆どのストーリーの中に、年老いたオリーブ・キタリッジが、ある場面では主役として、別の場面ではほんの脇役として登場します。
物語のテーマは、ずばり「老いる」です。ジャックと再婚したオリーヴの、74才から86才にかけての老いていく様子を描写するとともに、彼女の周囲の人々もそれなりに年を重ねていく姿を、短編集のなかに逸話とともにちりばめています。
各短編のなかの登場人物
オリーヴ・キタリッジ 物語の主人公 思ったこと、感情をずばり、歯に衣を着せずに言葉に出す、大柄の女性で、地元の中学の元数学教師 コチコチの民主党びいきでもある
今回の小説は、彼女の74才から86才に亘る、晩年の人生にまつわるストーリーが中心
ジャック・ケニソン 初頭の短編「逮捕」ほか各所に出て来る オリーヴの再婚相手 元ハーヴァード大教授
最初の妻ベッツィとの間に、西海岸に住むレズビアンの一人娘キャシーがいる
ヘンリー・キタリッジ オリーヴの最初の夫 オリーヴの思い出の中にしばしば登場する
クリストファー・キタリッジ オリーヴの一人息子 ニューヨークに住む足の専門医
「母のない子」でクリストファー一家がオリーブに会いに
アン・キタリッジ クリストファーの再婚相手 2人の子連れ クリストファーとの間にも2人の子、ヘンリーとナタリーがいる
ケイリー・キャラハン 「清掃」で登場 8年生(中学)の女生徒
スザンヌ・ラーキン 「救われる」に ロジャー&ルイーズ・ラーキン夫妻の娘
バーニー・グリーン クロズビーの町の老弁護士 「救われる」の項で、スザンヌの父・ロジャーの顧問弁護士
シンディ・クームズ 「光」に登場 オリーヴの教え子の一人 夫トムと同居 癌の治療中
「光」の最終章でオリーヴが言った言葉
「ほら、見てごらんな、二月の光」
がとても印象的
エレイン・クロフト ハーヴァード大時代のジャックの因縁の愛人 「ペディキュア」の章で詳しい経緯が
ジム&ヘレン・バージェス夫妻 ニューヨーク在住
ボブ&マーガレット・バージェス夫妻 クロズビー在住 ジムの弟夫婦
スーザン ジムとボブの妹 彼らが育った町、シャーリー・フォールズに住んでいる
三兄弟妹は「故郷を離れる」の章の主人公
アンドレア・ルリュー オリーヴの元教え子 今はアメリカを代表する桂冠詩人に 「詩人」で登場
ファーガス&エセル・マクファーソン夫妻 「南北戦争時代の終わり」の主役 娘のリーサとローリーも登場
ラボリンスキー医師 「心臓」の章に オリーヴが心臓発作で緊急入院した病院の担当医師
ハリマ ペティ オリーヴ担当の看護助士・看護師助士
イザベル・デグノー オリーヴが入居した老人ホーム「メープルツリー・アパートメント」の住人の一人 ホームで仲良くなった友人 最終章「友人」に
印象に残る言葉
老いていくオリーブの生き様(ざま)を読みすすむ中で、作者の著す、つぎのような言葉が印象に残りました。
💟 「分からないことは、分からないままに受け止めて、こころ静かに耐えること」
💟 「人間がどれだけの秘密を押し隠して生きる者かと思えば、それくらいの秘密に害はない」
💟 「二月の光が好き」
二月は日々に、日の照る時間が長くなる。そのような、日々に強まる光を、日々に体力が弱まる身には頼もしく、二月の光がとても好きになる。
「オリーヴ・キタリッジふたたび」のまとめ
物語の背景となる架空の町、クロズビーは作者エリザベス・ストラウトが育った、メイン州の片田舎の町をモデルにしています。
このメイン州の片田舎にも、現実には東アフリカからの移住民、イスラム教徒のソマリ人が増えてきており、小説の中にもときどき登場。
このような社会的な実情もまじえながら、オリーヴを通じて「老い」を実感として見つめていく今回の物語は、ピュリッツァー賞を受賞した、前作にも引けを取らない力作に仕上がっています。
ひとつひとつが独立した挿話になっている13章の短編を、かみしめるように味わいながら、年老いていくオリーヴとともに、読み進めることをお勧めします。
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