沖縄の難読地名・人名88選でも代表的な地名,「保栄茂」「勢理客」について,そのいわれを。東西南北の方角の呼び方と,「北谷」の呼び方についてなど,沖縄言葉をぐっと深堀してみましょう。
「保栄茂(びん)」と「勢理客(じっちゃく)」
「保栄茂」は、沖縄県豊見城市にある難読地名ですね。
読み方は、「びん」(Bin)といいます。
漢字三文字をたった二文字(音)で読むため、初見で正解するのは非常に難しい、沖縄を代表する難読地名の一つです。
なぜ「びん」と読むのか?
歴史的な背景には、以下のような変化があったと言われています。
- もともとは「ほえも」や「ぼえも」に近い音で呼ばれていた。
- それが琉球語の音韻変化によって「ふいむ」(Hwimu)へと変わった。
- さらに時代を経て音が縮まり、最終的に「びん」という発音に定着した。
「勢理客」も沖縄を代表する難読地名ですね。 読み方は、「じっちゃく」(浦添市)や「せりきゃく」(今帰仁村など)と呼ばれます。
特に浦添市の「じっちゃく」という読みについては、非常に興味深い由来があります。
「勢理客(じっちゃく)」の由来
この地名は、もともと「競り(せり)上がる」という意味を持つ言葉から来ているという説が有力です。
- 地形的な意味: この地域が、周囲に比べて「せり上がった(高くなった)場所」であったことから、「せりかく」と呼ばれるようになりました。
- 音の変化: 「せりかく」→「しりかく」→「じっちゃく」と、沖縄独特の言葉の訛り(音便化)によって、現在の短い呼び方に変化しました。
- 漢字の当て字: 「じっちゃく」という音に対して、後に「勢理客」という漢字が当てられました。
「客」という字が使われる理由
沖縄の古い地名には「〜客(きゃく・かく)」という字が使われることがよくあります。これは、新しく移り住んできた人々(寄留民)が開拓した土地を指す「切(き)り欠(か)く」という言葉に由来するという説もあります。
地域による読み方の違い
同じ漢字でも、場所によって呼び方が異なります。
| 地域 | 読み方 | 備考 |
| 浦添市 | じっちゃく | 国道58号線沿いの要所として有名です。 |
| 今帰仁村 | せりきゃく | 「せりかく」に近い、比較的元の音を残した読みです。 |
| 伊平屋村 | せりきゃく | こちらも村内の集落名として残っています。 |
沖縄の難読地名は「音の変化」が激しいため、クイズのようで面白いですよね。

方角にまつわる「南風原」「東風平」など
沖縄の地名は、風の吹く方向や方角を指す独特の言葉がそのまま地名になっているものが多く、非常に風情があります。
なかでも有名な「南風原(はえばる)」と「東風平(こちんだ)」について解説しますね。
1. 南風原(はえばる)
「南風」を「はえ」と読むのは、古語や航海用語に由来しています。
- 「南風(はえ)」: 沖縄を含む琉球列島では、夏に吹く南風を「はえ(はえの風)」と呼びます。
- 「原(ばる)」: 沖縄では「原」を「はら」ではなく「はる」と読み、開墾された土地や平らな場所を指します。
- 意味: つまり「南風が吹き抜ける、穏やかで豊かな土地」といったニュアンスが含まれています。
2. 東風平(こちんだ)
こちらはさらに難読ですが、分解するとルールが見えてきます。
- 「東風(こち)」: 春に東から吹く風を「こち」と呼ぶのは、菅原道真の歌(東風吹かば…)でも有名ですが、沖縄でも古い言葉が残っています。
- 「平(んだ)」: 「たいら」が変化して「だ」となりました。沖縄では「~平」を「~んだ」や「~びら(坂)」と読む例が多くあります。
- 意味: 「東からの恵みの風が吹く、平らな土地」という意味になります。
【おまけ】他の方角の読み方
沖縄では東西南北を独特の音で呼びます。これを知っていると、他の地名も読みやすくなりますよ。
| 方角 | 沖縄での呼び方 | 地名の例 |
| 東 | あがり(日が上がる) | 東江(あがりえ) |
| 西 | いり(日が沈む/入る) | 西表島(いりおもてじま) |
| 南 | はえ(南風) | 南風原(はえばる) |
| 北 | にし | 北谷(ちゃたん)※ |
注意: 沖縄で**「にし」と言うと「北」を指す**のが最大の罠です(笑)。「北谷」を「ちゃたん」と読むのは、もともと「きた(にし)の谷」を指していたからだと言われています。
「北」を「にし」と呼ぶ理由
「北(にし)」なのに「北谷(ちゃたん)」と読む理由や、なぜ「北」を「にし」と呼ぶのか?
深掘りしてみましょう!
「北」と書いて「にし」と読む……。これは沖縄の地名における最大のミステリーであり、県外の方が一番混乱するポイントです!
なぜ逆転してしまったのか、その面白い理由を紐解いてみましょう。
1. なぜ「北」を「にし」と呼ぶのか?
これには「風」が大きく関係しているという説が有力です。
- 「北風(ニシカジ)」: 古い沖縄の言葉(古琉球語)では、北から吹く風を「ニシ」や「イヌイ」と呼んでいました。
- 語源の説: * 「退(い)にし」説: 太陽が去っていく(退く)方向、あるいは冬に暖かい季節が去っていく方向から。
- 「根(ね)の方(し)」説: 北を生命の根源(ニライカナイ)の方向と捉えていたから。
いずれにせよ、沖縄では「ニシ=北」という概念が先にあり、そこに漢字の「北」を当てたため、文字と読みがチグハグになったと言われています。
2. じゃあ「西」は何と呼ぶのか?
「北」が「にし」に奪われてしまったので、本来の西はどうなったかというと……。
- 西 =「いり」
- 太陽が「入る(沈む)」方向だからです。
- 有名な「西表島(いりおもてじま)」がまさにこの読み方ですね!
3. 「北谷(ちゃたん)」の読み方の謎
さて、ご質問の「北谷」がなぜ「ちゃたん」なのかという点ですが、これには二段階の変化があります。
- 意味からの読み: 北にある谷なので、もともとは「にし・たん(北・谷)」や「きた・たに」に近い呼ばれ方をしていたと考えられます。
- 音の変化(訛り): 沖縄の古い発音では、「き(Ki)」の音が「ち(Chi)」に変化することが非常に多いです(例:肝→ちむ、雪→ゆち)。
- これにより、「きた(Kita)」→「ちた(Chita)」→「ちゃた(Chata)」と変化し、最終的に「ちゃたん」という響きになったという説が一般的です。
まとめると…
- 北 = にし(北風の呼び名から)
- 西 = いり(日が沈むから)
- 東 = あがり(日が昇るから)
- 南 = はえ(南風の呼び名から)
沖縄の人は、地図上の上下左右よりも、「太陽の動き」と「季節風」を基準に世界を見ていたことがわかりますね。
いかがでしたか?沖縄の地名は「漢字」を見るよりも「風や光」を感じるほうが正解にたどり着きやすいかもしれません。






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