那覇の街に、今年も「うりずん」の季節がやってきました。
毎年2月から4月にかけて,日本列島を襲う杉・ヒノキの花粉による花粉症に長年悩まされてきた私が,杉・ヒノキのないこの島に魅了され、足繁く通い始めて今年で13年目。コロナ禍で叶わなかった2021年を除けば、12回目の滞在になります。2月から4月にかけての約2ヶ月間、那覇の風に吹かれながら過ごす時間は、私にとって一年のリズムを整える大切な儀式のようなものです。
13年前、私が初めて沖縄に長期滞在をした頃、イメージとしての沖縄はまだ「長寿の島」という輝かしい看板を誇らしげに掲げていました。市場(まちぐゎー)に行けば、背筋の伸びた元気なお年寄りが島野菜を商い、食堂に入れば、滋味深い「ぬちぐすい(命の薬)」が並んでいました。
しかし、通い続けるうちに、私はある「変化」に気づかざるを得ませんでした。
かつて世界が憧れた「長寿の王国」に、今、何が起きているのか。 なぜ、男性の平均寿命は全国平均を下回るまでになってしまったのか。
そこには、戦後の激動、食文化の激変、そして現代社会が抱える「豊かさと健康」のジレンマが凝縮されています。12回の滞在で私が見てきた沖縄の風景と、改めて紐解いた膨大なデータ。これらを重ね合わせ、沖縄がかつての栄光を取り戻すために挑んでいる「現在進行形の物語」を、シリーズでお届けしたいと思います。
これは、単なる一地方の記録ではありません。 日本、そして世界が「真の健康」をどう守るべきかという、未来へのヒントが詰まった挑戦の記録です。
「うりずん」とは、沖縄の言葉で、3月・4月ころの春真っ盛り〜初夏の季節のこと 花が咲き、海開きもあちこちで行われます
沖縄県の男女別平均寿命の推移(1950年〜2020年)
では先ず,沖縄県の男性・女性の平均年齢の推移を見てみましょう。
戦争直後の1950年(昭和25年)から平成を経て,2020年(令和2年)までの50年間を5年ごとにまとめてみました。
| 西暦(年) | 男性(歳) | 女性(歳) | 備考 |
| 1950 | 59.40 | 65.50 | 戦後の混乱期からの回復期 |
| 1955 | 64.90 | 71.10 | |
| 1960 | 67.50 | 73.90 | |
| 1965 | 69.10 | 76.50 | |
| 1970 | 71.04 | 78.47 | 本土復帰(1972年)直前 |
| 1975 | 73.18 | 80.95 | 女性が全国1位を記録し始める |
| 1980 | 74.54 | 82.52 | |
| 1985 | 75.83 | 84.14 | 男・女ともに長寿の頂点へ |
| 1990 | 76.67 | 85.02 | |
| 1995 | 77.22 | 85.93 | |
| 2000 | 77.64 | 86.88 | 男性の順位が26位へ急落(26ショック) |
| 2005 | 78.64 | 87.44 | |
| 2010 | 79.40 | 87.02 | |
| 2015 | 80.27 | 87.44 | |
| 2020 | 80.73 | 87.88 | 男36位、女16位まで順位が変動 |
データの背景と「長寿県」の現在
- 平均寿命の驚異的な伸び: 1950年から2020年までの70年間で、男性は約21歳、女性は約22歳も寿命が延びました。
- 女性の強さ: 沖縄の女性は1975年から2010年まで、35年連続で全国1位をキープしていました。現在も上位を維持していますが、他県の追い上げが激しくなっています。
- 26ショックと食生活の変化: 2000年に男性の順位が4位から26位へ急落した現象は「26ショック」と呼ばれ、大きな衝撃を与えました。これは、戦後の米国統治下でいち早く食の欧米化(ファストフード、肉食、高塩分)が進んだことや、車社会による運動不足が主な要因とされています。
沖縄の長寿の秘訣だった「伝統的な食事(島野菜や豆腐)」と、現代のライフスタイルのギャップが現在の課題になっているようですね。

日本全体の男女別平均寿命の推移(1950年〜2020年)
次に,同じ時代の日本全体の平均を見てみましょう。
| 西暦(年) | 男性(歳) | 女性(歳) | 備考 |
| 1950 | 59.57 | 62.97 | 沖縄男性とほぼ同等、女性は沖縄の方が高い |
| 1955 | 63.60 | 67.75 | |
| 1960 | 65.32 | 70.19 | |
| 1965 | 67.74 | 72.92 | |
| 1970 | 69.31 | 74.66 | |
| 1975 | 71.73 | 76.89 | |
| 1980 | 73.35 | 78.76 | |
| 1985 | 74.78 | 80.48 | |
| 1990 | 75.92 | 81.90 | |
| 1995 | 76.38 | 82.85 | |
| 2000 | 77.72 | 84.60 | 男性の平均が沖縄を上回る |
| 2005 | 78.56 | 85.52 | |
| 2010 | 79.64 | 86.30 | |
| 2015 | 80.75 | 86.99 | |
| 2020 | 81.56 | 87.71 | 男性の平均が沖縄より1年近く伸びる |
沖縄と全国を比較して見えること
- かつての沖縄の圧倒的優位:
1950年〜1990年頃までは、沖縄の数値(特に女性)が全国平均を大きく上回っていました。例えば1985年時点では、全国の女性が80.48歳に対し、沖縄の女性は84.14歳と、約4歳近い差がありました。 - 男性の逆転:
2000年を境に、沖縄の男性の寿命は全国平均に追いつかれ、2020年には全国平均(81.56歳)が沖縄の男性(80.73歳)を一年近く上回る結果となっています。 - 女性の粘り:
女性に関しては、現在も全国平均と沖縄の数値は拮抗しており、依然として高い水準を保っています。
こうして見ると、日本全体が底上げされる中で、沖縄の(特に男性の)伸びが鈍化した形が見て取れますね。
時代ごとの寿命に影響を与えたおもな死因は以下のような要因でした。
| 時代 | 主な死因(傾向) | 背景 |
| 1950年代 | 肺炎、結核、胃腸炎 | 公衆衛生の発展途上 |
| 1980年代 | 脳血管疾患、癌(低水準) | 長寿の黄金期(伝統食+医療) |
| 2020年 | 悪性新生物(癌)、心疾患 | 食の欧米化、車社会、多量飲酒 |
<長寿県沖縄の食卓・第1回> むすび
長寿の島・沖縄の黄金期・1980年代を実現したのは,戦前からの沖縄独特の食習慣と言えます。その食卓の特徴は以下のような内容です。
- 主食: 米よりもサツマイモ(カライモ)が中心。食物繊維やビタミンが豊富でした。
- タンパク質: 「鳴き声以外はすべて食べる」と言われるほど豚肉を珍重しましたが、日常的には島豆腐や海藻(アーサ、コンブ)が主役。豚肉は行事の際に、余分な脂を徹底的に茹でこぼして食べていました。
- 野菜: ゴーヤー、ヘチマ(ナーベーラー)、ハンダマなどの島野菜を多用。
- 特徴: 「クスイムン(薬になるもの)」という医食同源の考え方が根付いていました。
この章では,「長寿の島・沖縄」と呼ばれた黄金期を全国平均と比べ,2000年以降の逆転ともいえる現状,昔の黄金期の要因となった食卓などを見てみました。
「長寿の島・沖縄」シリーズのテーマは以下の予定です。
| シリーズ | テーマ |
| 第1回 | なぜ世界はこの島にあこがれたのか |
| 第2回 | 26ショック 食卓を占領した欧米化の影 |
| 第3回 | データが語る『内なる敵』との闘い |
| 第4回 | 科学とITが切り拓く,再起のシナリオ |
| 最終回 | 2040年 ふたたび頂点へ。私たちの選択 |



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