20世紀後半から,フランスミステリー界にさっそうと登場した女流作家「フレッド・ヴァルガス」。
彼女は作家であるとともに,今回紹介する作品「死者を起こせ」で主人公的役割をになう考古学者,マルク・ヴァンドスレールと同じ中世の研究を専門とする考古学者でもある。
今回は作者の紹介とともに,彼女の初期の代表的作品,「死者を起こせ」にスポットをあててみます.。


作者 フレッド・ヴァルガス
フレッド・ヴァルガス(Fred Vargas)は、フランスの小説家および考古学者であり、特にミステリー小説の分野で高く評価されています。以下に、彼女の略歴と代表作についてまとめます。
略歴
– 本名 : フレデリック・オドワン・ルゾー(Frédérique Audoin-Rouzeau)
「フレッド」と言うファーストネームは男性を思いうかべるが,フランスでは女性にもフレッド(フレドリックFrederiqueの略)と言う呼び名があるとのこと

「ヴァルガス」はエヴァ・ガードナー主演の映画
「裸足の伯爵夫人」の主人公マリア・ヴァルガスにちなんで付けられたペンネームとのこと
– 生年月日 : 1957年6月7日
– 出生地 : フランス、パリ
– 職業 : 作家、考古学者
– 教育背景 : 彼女は考古学の修士号を取得し、特に古代の考古学に関心を持っていました。考古学者としてのキャリアも持ちながら、小説家としての道を歩み始めました。
ヴァルガスは、独特のスタイルと緻密なプロット構成、魅力的なキャラクター描写で知られています。特に、ジャン・バチスト・アダムスベルグ警視が登場するシリーズと3人の失業中の考古学者・三聖人シリーズで有名です。
代表作
ー ジャン・バチスト・アダムスベルグ警視シリーズ 「青チョークの男」(1991) 「裏返しの男」(1999)
ー三聖人シリーズ 「死者を起こせ」(本作 1995) 「論理は右手に」(1996) 「彼の個人的な運命」(1997)
これらの作品を通じて、フレッド・ヴァルガスはフランスのミステリー文学において重要な地位を占めています。また、彼女の作品は多くの言語に翻訳されており、国際的な評価を得ています。


「死者を起こせ」三聖人シリーズの第一作目
1995年に発表されたこの作品は,失業中の三人の歴史学者,マルク・ヴァンドスレール(中世史),マティアス・ドラマール(先史時代),リュシアン・ドヴェルノア(第一次世界大戦史)が事件に巻き込まれ,探偵役も演じるというシリーズの第一作目。
このあと,第2作「論理は右手に」,そして「彼の個人的な運命」と続き,邦訳もされています。
「死者を起こせ」にはこの三人に加え,マルクの伯父アルマン・ヴァンドスレール(元警視)が,事件解決への大きな役割を果たす。
この「死者を起こせ」にかぎらず,総じてこの作家の作品は,血なまぐさい惨劇とか,おどろおどろした場面とかは殆どなく,いわゆるなぞときを主眼とした作風であり,主人公たちの日常・悩み・心理的葛藤等の描写も入れながら,謎解きのストーリーを進めて行きます。
パリの一角のボロ館に同居したマルクの伯父アルマンが,三人の考古学者たちマルク・マティアス・リュシアンを,それぞれ福音書を創った聖人,マルコ・マタイ・ルカと呼んだことから,三聖人と名付けている
むすび
もちろんこの作品は,ミステリーとしての謎解きがメインテーマですが,物語の進行とともにマルクを中心とした学者たちと,彼らを取り巻く人間模様の描写がおもしろい。
社会的背景とか,正義の追求と言った,改まった小説としての社会的使命のようなものはなく,あくまで歴史学者たちを中心とした人間劇・心理描写を展開しつつ,事件の発生とその背景,そして犯人さがしを進める筋立てとなっています。
ミステリーを読むという感覚と同時に,フランス的というか,フランス人の書いた小説としての面白さを十分味わえる一冊といえます。




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